1. 湧き水と人の祈り~水に祈られた信仰とは~

湧き水と人の祈り~水に祈られた信仰とは~

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湧き水と人の祈り~水に祈られた信仰とは~

水は宗教と切っても切り離せない関係にあります。

それは古くから人間が生きるのに必要不可欠なだけでなく、生活を大きく左右する重要な資源であったことが影響しているのです。

農耕を左右する水

飲水

水が信仰される理由の一つは何といっても人間が農耕を行うようになって水が狩猟採集時代から比べるとはるかに重要な物になったからと言えるでしょう。

エジプトでもメソポタミア、古代中国の文明も農耕のしやすい川のそばで発展してきました。この川の状況によってその時々の穀物が豊作か不作かが変化しますので川や雨の神に祈りを捧げて作物の豊作を祈願しました。

このことから日本でも稲作が始まるようになるころには水は信仰の対象になっていたと考えられ、これらは蛇や竜に姿を変えて信仰されるようなります。

現在の島根県あたりの神話に登場する八岐大蛇伝説の八岐大蛇も激しい洪水などの伝承が神格化したのではないかと言う説もあります。古墳時代には埴輪に水に関わる施設をかたどった埴輪も作られます。

多くの為政者が水の神様に雨を降らせるようにお祈りし、長雨を止めるようお願いした話も残っています。

罪や穢れを洗い流す水

農耕以外にも水が重要な役割を示す話があります。日本の国生み神話に登場するイザナミ、イザナギの夫婦の話です。

イザナミが火の神を生んだ際に死亡してしまい、そのことを悲しんだイザナギが黄泉の国に行きます。黄泉の国で無事再会するのですが私を見てはいけないとイザナミは念を押します。

しかし、その言葉を破ったイザナギが見たのは醜く腐った姿のイザナミでした。その姿にびっくりして逃げ出すイザナギにイザナミは怒ってイザナギを追いかけます。

何とか無事黄泉の国から逃げ出すことが出来たイザナギは醜く汚い国に入ったのだから、ということで近くの沢で体を洗います。これが禊ぎの始まりです。

このことからは水は穢れを洗い流すことが出来る、と信じられています。神社などで入る前に手を洗うのも神様に合う前に穢れを払う必要がある為です。

湧き水に関わる信仰

水道

この様に水は豊かな生活をもたらしてくれると共に悪いものを払ってくれるという考え方が古代からありました。しかし水にまつわる信仰はこれだけではありません。

閼伽井護法善神社に伝わる蛇退治

閼伽井護法善神社はあの源義経が暮らしていた鞍馬寺の中にある神社です。千年前に峯延上人と言う偉いお坊さんが修業中にある二匹の大蛇が彼を襲いました。

峯延上人は見事これを返り討ちにし、襲った大蛇の雄蛇は死んでしまいます。

雌蛇の方はと言うと、鞍馬寺のご本尊に捧げる水を永遠に絶やさぬと誓いを立て、それ以来この神社で祀られるようになりました。神社の天井には水の神様である竜神が描かれています。

ちなみに死亡した雄蛇の方は竹伐り会式という行事の由来になったようです。この他にも鞍馬寺には源義経が剣術修行に向かった際に飲んだという湧き水があります。

竜ヶ窪の竜神伝説

新潟と長野の県境に津南町と言う町があります。ここには名所の竜ヶ窪と言う、雪解け水が地下水となって毎秒0.5トンという量の水が湧く池です。

この池にはこんな伝説もあります。ある年に日照りが続いてこの近くの村人は食べ物も水も飲めない生活をしていました。村のある青年が山に食べ物を探しに出かけたところ昼寝をしている竜に遭遇、そばに卵があるのを見つけて村の老人たちに食べさせようと持ち帰ります。

村について早速食べようとすると卵からは小さな竜が現れ母親に助けを求めました。母親竜が現れると村人を食い殺そうと襲い掛かりますが村人たちは必死に「子供たちだけは助けてほしい」と懇願します。

その姿に心を打たれた竜は三日三晩雨を降らせて池を作った、これが竜ヶ窪である、というお話です。

この近くにはその話の竜神が祀られている神社もあり、地元の人はこの池を大切に守ってきているのです。

奈良県東大寺のお水取り

奈良の東大寺で行われる神事の一つにお水取りと言うものがあります。

閼伽井屋と呼ばれる建物から水を汲んでその水をご本尊にお供えするといった行事なのですが、由来は現在の福井県に当たる若狭の遠敷明神が神々の参集に遅れたことのお詫びとして東大寺二月堂のご本尊に水を送ったことに由来します。

ただしこの閼伽井屋の井戸、不思議なことに普段は枯れているのにこのお水取りの儀式が行われるときだけ水が湧いていると言うのです。

逆に若狭、現在の福井県小浜市にある神宮寺ではここに水を送るお水送りという儀式がこの10日ほど前に行われています。

 

この他にも富士山をご神体とする浅間大社に湧く水は富士山の神聖な力が宿ると信じられ、神奈川県大山にある大山阿夫利神社の境内に湧く水は延命長寿の効果があると信じられてきました。

鎌倉の銭洗弁財天宇賀福神社や東京の品川神社にはなんと金運アップにご利益のある泉があります。

昔は天候や水の流れはまさに神の領域。平安時代のある天皇は「鴨川の流れはどうすることもできない」と嘆くほどです。

現在では水道の発達やミネラルウォーターやウォーターサーバーが普及し水は簡単に手に入るし川も河川工事などでコントロールできるようになりました。

かつての水のあり方に思いを馳せるとそのありがたさを感じることができるかもしれません。